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広島高等裁判所 平成5年(ラ)11号 決定

平成五年(ラ)第二号事件抗告人・第五号、第一一号、各事件相手方(原審相手方、以下「原審相手方」という。)

A1

右代理人弁護士

山田慶昭

平成五年(ラ)第二号事件相手方・第五号事件抗告人・第一一号事件相手方(原審相手方、以下「原審相手方」という。)

B

右代理人弁護士

間所了

飯岡久美

平成五年(ラ)第二号、第五号各事件相手方・第一一号事件附帯抗告人(原審申立人、以下「原審申立人」という。)

C

平成五年(ラ)第二号、第五号各事件相手方・第一一号事件附帯抗告人(原審申立人、以下「原審申立人」という。)

A2

右両名代理人弁護士

生田博通

被相続人

A3

昭和四九年一二月一日死亡

被相続人

A4

昭和六一年二月一六日死亡

主文

一  再度の考案後の原審判を取り消す。

二  本件を広島家庭裁判所に差し戻す。

理由

一本件各抗告及び附帯抗告の適否と当審の審判の対象

1  本件各抗告及び附帯抗告の経緯は、次のとおりである。

平成四年一二月二一日

原裁判所の原審判(第一回審判)

同年同月二八日

右審判の原審申立人ら及び原審相手方Bへの告知

平成五年一月七日

原審相手方B即時抗告申立て(平成五年(ラ)第五号。抗告の趣旨及び理由の要旨は、別紙抗告の趣旨及び理由の要旨一記載のとおり)

同年同月八日

原審判の原審相手方A1への告知

同年同月二一日

原審相手方A1即時抗告申立て(平成五年(ラ)第二号。抗告の趣旨及び理由の要旨は、別紙抗告の趣旨及び理由の要旨二記載のとおり)

同年同月二五日

原裁判所の再度の考案による更正審判(原審相手方Bの抗告理由の一部を容れて、原審判の主文第2項ないし第6項を更正したもの。第二回審判)

同年同月二六日

右審判の原審申立人ら及び相手方らへの告知

右審判に対する即時抗告なし

同年二月二四日

原審申立人ら原審判に対し附帯抗告申立て(平成五年(ラ)第一一号。附帯抗告の趣旨及び理由の要旨は、別紙抗告の趣旨及び理由の要旨三記載のとおり)

同年三月二二日

原審相手方A1抗告の趣旨を主文のとおり訂正

同年四月二三日

原審申立人ら附帯抗告の趣旨を主文のとおり訂正

同年同月二八日

原審相手方B抗告の趣旨を主文のとおり訂正

2  本件各抗告は、前記のとおりいずれも法定の抗告期間内に提起された(本件附帯抗告も当審の裁判までに提起された)適式のものである。また、家事審判に対する即時抗告については、その性質に反しない限り、審判に関する規定が準用される(家事審判規則一八条)ところ、家事審判については、同一事件についての異なる当事者からの重複申立てを禁止する規定は存在しないし、遺産分割の審判の申立ては、各共同相続人がそれぞれ独立して申立て得る(民法九〇七条二項)ものであるから、共同相続人の一人が遺産分割の審判を申し立てた後に他の一人が重ねて同一遺産の分割の審判を申し立てても、後の審判の申立てが重複のゆえをもって不適法となることはないものと解すべきであるし、それと同様に、右審判に対する不服申立ても、右審判に不服のある各当事者が抗告期間中は即時抗告により、抗告期間経過後は附帯抗告によりそれぞれ独立してなし得るものと解すべきであるから、同一審判について一当事者が即時抗告をした後に他の当事者が重ねて即時抗告や附帯抗告をしても、後の即時抗告や附帯抗告が二重抗告として不適法となることはないものと解すべきである。(法文の形式上は、家事審判法七条、非訟事件手続法二五条、民事訴訟法四一四条、三七八条、二三一条により、家事審判についても二重抗告が許されないかのように見えなくもないけれども、家事審判手続は本来的には当事者が相対立する構造にはなく各当事者が裁判所と相対する構造であり、事実上相対する当事者相互からの同一事項についての申立てによる事件も同一事件とはいえないと考えられる点、家事審判には一般に既判力がなく判断抵触回避の要請が判決の場合ほど絶対的なものとは解し難い点、即時抗告はもちろん家事審判の申立ても相手方の同意なくして取り下げ得ると解される点などを考慮すると、家事審判の申立て及び家事審判に対する即時抗告には、その性質から民事訴訟法二三一条の準用はないものと解するのが相当である。)。したがって、本件各抗告及び附帯抗告は、いずれも適法なものというべきである。ただ、本件各抗告及び附帯抗告は、同一審判を対象とするものであるから、一括して審判するのが相当である。

3  ところで、前記のとおり再度の考案による更正審判に対しては、原審申立人らからも原審相手方らからも改めて抗告は提起されてないが、右更正審判は、再度の考案前の原審判の一部を更正する審判で、原審判と一体をなすものであり、再度の考案前の原審判に対しては本件各抗告及び附帯抗告が提起されているところ、前記のとおり本件各抗告及び附帯抗告とも不服の範囲を再度の考案後の原審判全部に拡張したから、当審の審判の範囲は、再度の考案後の原審判全部(第一審判中再度の考案によって更正されなかった部分及び第二審判)に及ぶものと解される。

二本案についての判断

記録によれば、再度の考案後の原審判(再度の考案前の原審判も同じ。)は、原審申立人ら及び原審相手方らの具体的相続分を算定するにあたって、遺産・特別受益・寄与分の各評価を、審判時を基準時点として行っていることが認められる。

しかし、右の具体的相続分の算定方法は、是認することができない。その理由は、以下に述べるとおりである。

各相続人の具体的相続分は、(1) 民法九〇三条、九〇四条、九〇四条の二の各条文の法典における位置及び文言、(2) 遺産分割前の相続分又は遺産を構成する個々の財産の持分の譲渡の場合を考えると、具体的相続分は相続開始時に確定していると解するのが相当であること、(3) 遺留分算定にあたっての特別受益の評価が相続開始時を基準時点としてすべきものとされていること(最高裁昭和五一年三月一八日民集三〇巻二号一一一頁)との整合性などからすれば、遺産・特別受益・寄与分を相続開始時を基準時点として評価してするのが相当であると解されるところ、本件の場合、被相続人A3についての相続開始時は昭和四九年一二月一日であるが(被相続人A4については相続人全員特別受益も寄与分もないものとされている。)、その後の経済事情の変動を考えれば、前記原審判の評価基準時点の設定は、到底相当とは考えられないからである。

してみると、再度の考案後の原審判は、不当であり、取消しを免れない。そして、本件の場合、改めて原審で、遺産・特別受益・寄与分につき相続開始時を基準時点として評価し直して各相続人の具体的相続分を算定し、それに基づいて遺産分割をやり直させるのが相当である。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官露木靖郎 裁判官小林正明 裁判官渡邉了造)

別紙抗告の趣旨及び理由の要旨

一 原審相手方Bの即時抗告(平成五年(ラ)第五号)

1 抗告の趣旨

原審判を取り消し、適正な審判を求める。

2 抗告の理由の要旨

一 原審判は、遺産の評価、特別受益の有無・範囲及び評価、寄与分の判断が不当である。

二 原審判は原審相手方Bらに超過特別受益の返還を命じているが、民法九〇三条に反し不当である。

二 原審相手方A1の即時抗告(平成五年(ラ)第二号)

1 抗告の趣旨

原審申立人らの申立てを棄却する。

2 抗告の理由の要旨

一 原審判は、遺産の評価、特別受益の有無・範囲及び評価、寄与分の判断が不当である。

二 被相続人は、原審相手方A1らに対し、持ち戻し免除の意思表示をしている。

三 原審申立人らの附帯抗告(平成五年(ラ)第一一号)

1 附帯抗告の趣旨

原審判を取り消し、本件を広島家庭裁判所に差し戻す。

2 附帯抗告の理由の要旨

原審判の原審相手方A1の寄与分の評価は過大である。

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